チャーチルのメモ
1940年、壊滅の危機に瀕した英国の宰相の座についたウィンストン・チャーチルは、政府各部局の長に次のようなメモを送った。
われわれの職務を遂行するには大量の書類を読まねばならぬ。その書類のほとんどすべてが長すぎる。時間が無駄だし、要点をみつけるのに手間がかかる。同僚諸兄とその部下の方々に、報告書をもっと短くするようにご配意ねがいたい。
- 報告書は、要点をそれぞれ短い、歯切れのいいパラグラフにまとめて書け。
- 複雑な要因の分析にもとづく報告や、統計にもとづく報告では、要因の分析や統計は付録とせよ。
- 正式の報告書でなく見出しだけを並べたメモを用意し、必要に応じて口頭でおぎなったほうがいい場合が多い。
- 次のような言い方はやめよう:「次の諸点を心に留めておくことも重要である」、「……を実行する可能性も考慮すべきである」。この種のもってまわった言い廻しは埋草にすぎない。省くか、一語で言い切れ。 思い切って、短い、パッと意味の通じる言い方を使え。くだけすぎた言い方でもかまわない。
私のいうように書いた報告書は、一見、官庁用語をならべ立てた文書とくらべて荒っぽいかもしれない。しかし、時間はうんと節約できるし、真の要点だけを簡潔に述べる訓練は考えを明確にするにも役立つ。
私の筆は "To do our work, we all have to read a mass of papers……" とはじまる簡にして要をえた文章の味を十分につたえていないが、大意はおわかり頂けると思う。<簡潔>はやがて第8章の主題の一つとなるはずである。
1) R.Barrass: Scientists Must Write - A guide to better writing for scientists, engineers and students, (Chapman & Hall, London, 1978).